一歩踏み出せば地域ってもっと魅力的! 唐津の高校生と地域をつなぐ架け橋を。

『NPO法人WeD』代表理事

吉森 旭希さん

保健室には悩みがいっぱい モヤモヤを抱える高校生たちに輝ける場所を 

養護教諭として佐賀県の高校で学生たちと関わってきた吉森さん。学校教育に限界を感じていたことをきっかけに、2019年11月から高校生と一緒に任意団体として活動をスタート。2021年4月には活動の幅を広げるためNPO法人WeDを設立した。そんな吉森さんのターニングポイントは、職場であり、高校生たちとつながる場所でもあった“保健室”だと言います。

さまざまな悩みを抱えて保健室へやってくる生徒たち。吉森さんが自分の学生生活を振り返ったとき、特に共感したのが“何かわからないモヤモヤ”を抱えていることだったそうです。 「私は高校生活が楽しくなかったんです。中高とレールに乗って、ただ単にそのレールを進んでいるだけだなみたいな感覚がずっとありました。よく保健室行ったり、学校を休んだりしていましたね(笑)」 「特に“何かわからないモヤモヤ”を抱えて保健室に来る生徒たちの話を聞いているなかで、『この子たちは学校で能力を持て余しているな』と感じました。もしそうなら、学校の外でキラキラ輝ける何かがあったら絶対いいな!と思って、生徒たちに声をかけたんです。」 

後にWeDの一期生となったのが、この時モヤモヤを抱えて保健室に来ていた高校生たち。現在では、SUPで無人島に渡って行う海岸の清掃活動、高校生カフェ、地元商店街をステージにした文化祭と、さまざまな活動を展開するWeDですが、その活動者となっているのは、活動開始当時から変わらず「自己実現とは何かがわからない」というモヤモヤを抱える高校生たちなんだそうです。

学校を飛び出して地域へ 感じた学校教育の限界、高校では経験できない社会とのつながりを求めて 

保健室で関わる高校生たちから、吉森さん自身もたくさんの刺激を受けたと言います。 「唐津の高校の保健室に勤めているとき、理由はわからないですけど、ずっとモヤモヤしていました。そしたら実は同じようにモヤモヤしている生徒たちがいるのがわかって(笑)。当時はみんなで悩んでいたけど、もしあの時モヤモヤしてなかったら、そういう風に感じさせてくれた生徒たちに出会ってなかったら、学校教育の限界を考えたりせずに仕事だけしていたと思います。」

モヤモヤを抱えながら働いていた当時、ボランティア同好会の顧問をしていた吉森さんは、学校外でのボランティア活動に子どもたちを連れだしたのだそうです。 さらに、そんな学校外の活動のなかで子どもたちが笑顔になったり自己肯定感が上がっていく様子を見て、外の世界に出て価値観を変えることの大切さ、高校生たちが地域と関わりを持つ大切さを実感していきました。

WeDの活動に参加している高校生たちは、学校教育以外の学びに魅力を感じているようです。 「活動に参加してくれている子たちは、高校では体験できない社会とのつながりっていうのにすごい魅力を感じてくれています。企業の方々と一緒にイベントを作り上げていったりとか、プロで活躍していた方の生き方を聞いたりとか、イベントを運営する、自分たちの力で利益をえる、とかやっぱりそういう、何かしら学校の中にはない魅力っていうのがこのWeDには詰まっていますね。それがWeDの魅力です。」

保健室に通っていた子どもたちが学校外の活動を持つようになってからピタッとこなくなったり、学校でモヤモヤしていた生徒がキラキラ楽しそうに活動していたり。吉森さんも驚くほど、悩んでいた高校生たちの様子は変わっていったそうです。

大人はあくまで伴走者 子どもたち自身が地域とのつながりを形作っていく

NPO法人WeDを立ち上げてから3年が経ち、2023年度には、全国から198件の応募があったパナソニック教育財団の「子どもたちの“こころを育む活動“」で見事に優秀賞を受賞。唐津の高校生と地域の懸け橋として活躍する吉森さんは、高校生を支援する活動に対してどのような想いを持っているのでしょうか。

「唐津を出ていく子どもたちが、また唐津に戻ってくるかどうか、その判断材料には、”きっかけがどこにあるのか”だと思っています。高校生時代に地元の人たちと一緒に共同してなにかを作り上げたとか、高校生たちが18年間生きてきたなかで、地域の良いところとか、ちょっと残念なところとかを知るとか。将来子どもたちが外に出た後に、『やっぱり唐津のああいう良いところをPRしたいから唐津に帰ってこよう』とか、『あんな残念なところあったから自分たちがなんとかしなきゃ』とか思ってもらえるような、”地域とつながるきっかけ”をWeDが作っていきたいと思っています。将来、唐津に帰ってきてくれたらいいなって想いながら支援しています。」

吉森さんが高校生支援を行う上で気掛けているのは“あくまで大人は伴走者”であること。子どもたちの主体性を信じてサポートすることを意識してるのだそうです。 

と言いつつ、WeDの活動の中ではサポートの大人たちも子どもたち以上にキラキラ光っています。  「一番最初の立ち上げメンバーと話すなかで、“ワクワク”っていうワードがよく出ていました。こんなに楽しそうでワクワクしている大人たちがいる唐津ってすごいよね!このワクワクを高校生たちと一緒に共有して、高校生たちもワクワクしながら生活できる唐津ができたら、すごい素敵な唐津ができるよね!ってよく話していましたね。」 

大人になることや将来への不安が募る高校生たち。そんな難しい時期に思い切って活動に踏み出せるのは、吉森さんたち自身が楽しそうにキラキラ光っているからなんですね。

モヤモヤはスタート 地域を通して楽しくいることが地域づくりにつながっていく

吉森さんにとって、地域づくりとは一体何でしょうか。

「私は自分がローカリストだと思いながら活動しているわけではないですし、地域づくりをしているとも思ってないんですよ。自分が楽しくて、高校生と一緒に活動できて、高校生が自分たちで考えることを楽しいと思ってくれて、成長していく過程を見るのが好きなだけなんです。最終的にはこれが地域づくりにつながっているのかもしれないですけど。」

ライター : 星野 アオイ
写真 : 鷲崎 浩太朗
編集 : 山本 卓

PROFILE

吉森 旭希(よしもり あき)

1983年埼玉県生まれ、5歳頃に父の実家がある佐賀県唐津市に移住。熊本大学の養護教諭特別別科を修了後、小学校や高校で講師を務め、2009年4月から佐賀県の養護教諭としてのキャリアをスタートさせた。2019年11月に高校生と活動を始め、2021年4月にNPO法人WeDを設立。現在も仕事と代表理事を務めながら高校生を支援している。

地域を活かし佐賀をつくる SAGA LOCALIST
LOCALIST(ローカリスト)は、佐賀県内で精力的に地域づくり活動に取り組んでいる方で、若い世代の方々にお願いしています。