地域を笑顔にすることは、自分が一番楽しむこと。

『とこのとこ』店主

江口 智子さん

須古寿司がなくなるかもしれないと、不安を感じた。

佐賀県白石町須古地区でカフェ『とこのとこ』を営む江口智子さん。地域に愛される伝統料理『須古寿司(すこずし)』を守るため、カフェをオープンしました。須古寿司が食べられるカフェを作ろうと思ったきっかけは、何だったのでしょうか?

「500年以上の歴史のある郷土料理須古寿司(すこずし)。昔から地元に愛されていたお寿司なんですが、ある日、親戚のおばさんから『素晴らしい郷土料理があるのに気軽に食べられるお店ないの』って聞かれて困ったんです。須古寿司を食べられるお店ってなくて、仕出し屋さんも減ってきていたので…。『誰が須古寿司を続けていくのかな。』って考えるようになっていったんです。

そして須古地区には、気軽に食事ができるお店がありませんでした。いろんな会議に呼ばれるんですが、会議に言ってもなかなかいい意見が出てこない。もっと食事やお酒を楽しみながら、たくさんお話ができる「地元の人たちがぷらっと寄れる場を作りたい」と思ったことが開業のきっかけです。

子どもたちの未来のために、自分にできる事をする

結婚を機に白石町に引っ越してきた江口さん。生まれ育った場所ではない新しい環境に飛び込んだ当時は、どのような想いだったのでしょうか。

「当時、主人の実家だった白石町には、知り合いも友達もいなくて…。それに今みたいにSNSの無かった時代だったので、結構孤独でした。でも、子どもたちの成長とともに、一番上の娘が保育園に通い始めたくらいから、周りの方々が声をかけてくれるようになってきたんです。それから、小学校行事や子供クラブに積極的に参加しましたし、いろんな企画やイベントをやるようになりました。子どもの成長とともに、私の地域が広がったような気がします。」

「それから、須古地区にも地域づくり協議会というものが出来て、その中に“子ども部会”が出来たんです。この子どもの為の部会が出来たことで、『地域全体で子どもたちの為の未来に何か残していきたい』と地域全体が考えているんだなと思ったんです。だから私も、自分にできる事をやってみたいと考えるようになりました。地域の方々と話している中で出てきた課題を解決するために、子どもだけで行うおくんち“子どもくんち”を立ち上げたんです。そこでこれまで子どもたちと一緒にいろんなことをやってきました。私の子どもがある程度大人になっても、昔の思い出とか、喋ってくれたりするんです。「あの劇面白かったね」とか。それを聞いて、私は やってよかったなって思いました」

今自分ができる事を考えて行動する。この江口さんの行動が地域との関わりを強くしていきました。江口さんの活動に関するターニングポイントは、子育てを通じて“地域の子どもたちの未来を考えた”ことだったのだと思います。

人が好きになったから地域が好きになる。地元みんながもつ“須古愛”とは。

現在、国指定の史跡を目指して、発掘作業が行われている須古城跡。ここ白石町須古地区には長い歴史があります。「この地区はいいところがいっぱいあるんです。湧き水も美味しいし、風景がいい、歴史もあるし。だから、子どもたちにも須古を好きでいてもらいたいと思っています。」と語る江口さん。この地域にある須古愛の原点とはどこなんでしょうか。

「この地区は、保育園から小学校まで、ずっと1クラスしかないんです。だからずっと保護者さんも一緒だったりします。地域全体で、子どもたちを見守っているって感じがあって、子育てはすごくしやすい地域だと思います。それに『子供たちのために何かしたい』って思ってる方が多い地域だと思います。すごく人に恵まれていると思うんです。だから私は、子どもたちみんなが、自分の生まれた須古を好きでいてくれたらいいなと思うんです。自分の生まれたところを好きでいてもらえたら、住んでいる人が楽しかったら、移住してくる方も増えるんじゃないかなとも思います。」

地域を守り続けてきた人たちとの交流の中で江口さんが感じた地元の“須古愛”。地元の方々の須古愛が、地域の子どもたちの未来を考えることにつながっているのだと思います。

自分が一番楽しむことの大切さ。私が一番子どもっぽいんです。

江口さんにとって地域づくりとは、一体何なのでしょうか。

「地域って、作るものではないような気がしています。とにかく、その土地を好きになって、その土地で自分のやりたいことを楽しくやることが大事じゃないかと思います。そうじゃないと誰も一緒にやろうとはしてくれないじゃないですか。『自分が楽しむからこそ、周りも楽しめる』と思います。地域課題っていっぱいあるからこそ、楽しいことじゃないと続けられないですよね。だから、まずは自分がやりたいことを、自分の好きな場所でやってみる。もしかしたら“自分が一番子どもっぽい”のかもしれません。私が好きな須古地区を自分自身が一番楽しまないと勿体ない。カッコいい言い方をするのであれば…次世代のリーダーを育てたいという想いですね。」

ライター : 山本 卓
写真 : 鷲崎 浩太朗
編集 : 星野 アオイ

PROFILE

江口智子(えぐち ともこ)

福岡に生まれ、結婚を機に、白石町須古地区に住み、3人の子育てをしながら、フリーのイラストレーター、消しゴムはんこ作家、クリエーターとして活動。地域に愛される伝統料理『須古寿司』を守るため、カフェ「とこのとこ」をオープン。須古地区地域づくり協議会“子ども部会長”に就任し、地域に根付いた活動をしている。

とこのとこ

〒849-1104
佐賀県杵島郡白石町堤624-1
Instagram:
https://www.instagram.com/tocontoco/

地域を活かし佐賀をつくる SAGA LOCALIST
LOCALIST(ローカリスト)は、佐賀県内で精力的に地域づくり活動に取り組んでいる方で、若い世代の方々にお願いしています。