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「和紙を起点に五感や空間をアップデートするのがおもしろい」谷口弦さんインタビュー

「和紙を起点に五感や空間をアップデートするのがおもしろい」谷口弦さんインタビュー
佐賀市地域と人
佐賀市

▼この記事でわかること
・大和町名尾地区で名尾和紙をつくる「名尾手すき和紙」7代目谷口弦さんのインタビュー
・名尾和紙とは
・時代の流れで変わりつつある和紙の価値
・和紙を五感でとらえる直営店<KAGOYA>での挑戦
・和紙には「概念」になってほしい
・これからも名尾の地で紙をつくりつづける

谷口弦さん
名尾手すき和紙7代目
大和町名尾地区で300年以上つづく名尾和紙の工房「名尾手すき和紙」の7代目。従来の伝統を受け継ぎながら、商品開発やアート制作にも精力的に取り組む。
https://naowashi.com

和紙には「目に見えないもの」をつなぎ留める力がある

のどかな田園風景が広がる大和町名尾地区。ここでつくられているのが江戸時代に農民たちが自発的に学んで始めた『名尾和紙』です。昭和の初めには100軒ほどの工房がありましたが、現在では「名尾手すき和紙」1軒のみとなりました。
名尾和紙は、耐久性に優れており、文化財の修復や旅館・店舗の壁紙、商品のパッケージや什器などさまざまなところに使われています。

谷口さんは高校卒業まで名尾で過ごし、進学を機に県外へ。10年前に名尾に戻り、工房を継ぎました。社会の中で和紙の需要は減っていますが現状に対して悲観はしていません。
「和紙が衰退しつつあるのは人類全体の流れのなかで仕方がないというか、みんなががんばって技術を進化させてきた証だと思うので、それを否定する気は全くありません。
僕も一時期は生活の中にある道具としての和紙需要を取り戻すことに注力していた時期がありました。でも、無理があるなと。
それから、和紙は道具としての役割を卒業したのかもしれない、置かれている状況が変わって和紙そのものの価値が別のところに移動したのかもしれないと考えるようになりました。」

「じゃあどこに移動したんだろうと考えると、たとえば、お祓いするときに使う紙垂(しで)。
それから提灯の紙。どちらも神事の時に使うんです。要は、神に祈ったり、目に見えないものに接するときに使うんですね。
人の精神性や想像力といったものをつなぎ留める力があるんだろうなと。そういうところに和紙の価値が移動した空間がある気がして、それを見つけたくていろんなトライをしているところです」

和紙を早く概念化させたい

谷口さんのトライの一つが2024年6月にオープンした直営店<KAGOYA>。隣の工房ですいた100種類の和紙や、和紙を使った文具や提灯などのプロダクトを展示、販売しています。ここでのトライは「和紙を五感でとらえる」こと。
「紙の状態だけ見て『和紙』というのはあくまで一つの側面。
原料の植物(カジノキ)を多面的にとらえた時に、香りの原料にもなるな、飲んでみたらどんな味なんだろう、揺らしたらどんな音がするんだろうと一つひとつ違う視点で捉えて、各分野のプロフェッショナルに形にしてもらいました」
そうして出来上がった店内には名尾地区で収集した音を使ったBGMが流れ、紙の原料である「カジノキ」を使ったお香が焚かれています。また、カジノキのお茶も販売されています。

和紙づくりを起点にしながら他の領域の人たちと軽やかにつながり、「紙」以外の形で和紙を受容、展開していく谷口さん。今後和紙をどのようにしていきたいかを尋ねました。

「和紙を早く概念化させたいんですよね。ものの例えで「漫画みたい」ってあるじゃないですか。そんなふうに和紙も、なにかにつけてそれって「和紙じゃん」って例えられるといいなって。そうなると物質的な形がなくなってもおもしろいと思うんです」

名尾手すき和紙としての仕事のほか、個人やユニットで和紙を用いたアートも精力的に制作。考え方や制作物の先進的、革新的な視点、異なる分野やものを結びつける発想力はどこから来ているのでしょうか。
「子どもの頃、周りの子たちは野球に夢中になっていたけど僕は家のテレビで夕方に放送されるアニメを見ていました。ゲームも好きだし、僕の人生の半分ぐらいは生きていくのに必要なこと以外に時間を使っていると思うと、感じていることの半分は現実世界、半分は虚構かもしれないと思うんですよね。何かを見て背景を想像したり、エモさを感じたりする遊びもずっとやってきたし。
でもそういう感覚を分かち合える人はたくさんいると思います。たとえば、「和紙は香りですよ」と言ったときに「いや違うでしょ」という人ってもう今いなくなっちゃったので。すげえ良い時代だなと思う昨今です」

時代が変わっても名尾で紙をつくることは変わらない

これまでにない形で和紙と人や空間をつなぎながらも、昔から変わっていないことも多いと話す谷口さん。
「変わったのは、作るものの見た目とか「ガワ」だけだと思いますよ。
先代である父の時は、和紙を商品パッケージに使うことを始めたばかりだったけど、今は結構当たり前になった。じゃあ他に何に使えるか考えよう、というように社会とか周りの状況が変わるのに合わせて、アウトプットが変化するのは普通だと思います。先代、先々代たちが、その時々やるべきことを120%やっていたから僕にバトンがつながったという話です。
これまで話してきたように、和紙って物質と精神の両方に関わるもので、歴史は長いけれど定義はあいまいなんですよね。そういったフリーな性質と時代の流れがあって、でも名尾で手すき和紙をつくるという僕らのベースは絶対的に変わらない。だからいろいろと試したり、遊んだりできるんです」

人の歴史や空間に寄り添う和紙。文化財を修復したり、ときには空間にちなんだ異素材をすき込んでの紙づくりを行ったりする上で大切にしているのはお客さんとのコミュニケーション。
「たとえば、旅館の壁紙を作るとしたら旅館のコンセプトに近づけていくことが必要なのですが、そこをディスカッションしながら進めていける関係性を築くことに注力しています。人との関係性は、和紙が使われる空間が心地良く仕上がるかにも影響します」

「僕たちがいろいろ提案していくことも大事だし、名尾和紙や僕たちのことを好きだと思ってくれる人が声をかけてくれたらそれで十分。
とりたてて何かをやらなくても、僕たちが楽しくやっていればそれを見つけてくれる人がいますから。
名尾で原料を育てて、刈り取って、工房で紙をすく。10時と3時のお茶の時間を楽しむ。そのスタンスを守り続けていけばいいんじゃないかな」

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