▼この記事でわかること
・コロナ禍を機に家族で神集島に移住
・移住後の生活はほぼ「釣り」
・思わぬところから動画に反響
・島の人たちの「ふつう」がおもしろい
釣りYouTuber・スンさん
釣り好きが高じて2021年に神集島に家族で移住。釣りの様子や離島暮らしなど、YouTubeで発信している動画が人気を集める。
https://www.youtube.com/@tsurisenba
移住の決め手は釣りおばあちゃん・カズコさん
15年以上にわたって唐津市内から神集島まで釣りをしに通っていたスンさん。本土との距離や定期船の金額、そして何より島の人たちが魅力的だったといいます。
「釣りをしているといろんな人が話しかけてくれるんですよね。10年前ぐらいはまだ島に中高生もいて、その子たちも『どんな?』って。」
中でも仲良くなったのが島の釣りおばあちゃん・カズコさんだったといいます。
「釣り人が多い神集島の中でもなかなかのハードスケジュールで釣りをするんです、カズコさんは。釣り場まで車でぱ〜っとやって来る。出会った頃は『お兄さん何釣りにきたの?釣れた?あんまり釣り過ぎんごてね(笑)』って声をかけてくれました。僕の子どもも孫みたいにかわいがってくれて、釣りをしている間に預かってくれたことも。カズコさんがいるなら、と思って移住を決断しました」
移住を考えたきっかけはコロナ禍による移動制限で島に行けなくなったこと。スンさんにとって釣りはライフワーク。動画の収益で生活していることもありこのままではまずい、と思ったそう。奥さんも移住に賛成で、区長が家を紹介してくれたこともあり移住までの道のりはスムーズ。生活は大きく変化したといいます。
「以前は島に2〜3時間かけて行くのが当たり前でした。今は海の横に住んでいるから釣り場まで歩いて10分。朝に釣って、ご飯を食べに戻って、また釣りに行って、お昼ごはんを食べて… 釣りと生活が一体化しています。」
子どもが泣いたら喜んでくれる
移住前から頻繁に釣りに来ていたとはいえ、はじめの頃は島の人にとまどわれたといいます。
「最初は僕がYouTuberということを知らない人がほとんどで、『釣りばっかりしてるし、子どももいるみたいだけど何をしている人なの?』と思われていましたけど、今は動画が収入源とわかってくれて、『見てるよ』と言ってくれます。
それから、子育てをしているからみんな応援してくれますね。外で泣いても『元気でいいね』と言ってもらえたり、お菓子を買ってくれたり。以前はアパートに住んでいて、子どもの声が迷惑にならないかを気にしていたから、泣いても喜んでもらえるのは精神的に本当に助かります。
子どもは島にいる時はみんながあれこれ声をかけてくれるから、島外に出たときに誰にもあいさつされないことにびっくりしています。人との距離の近さや温かみはやはり違うなと思いますね。」
巨大イカをつかまえる動画が300万回再生
神集島に移住して3年。動画の撮影では島だからこそ起きることがおもしろい、と話すスンさん。
「船着場にイカがいると連絡が来たから行って、その場にいる人と会話しながら探し回っていたらいつの間にかどんどん人が増えていったんですね。途中からかなり大きなイカだとわかって、島の人が船を出して湾の中を追いかけたり、銛を投げたり。船で追いかけていた人に託した僕の網が壊れるハプニングもありましたけど、動画を見ている人からするとそれもおもしろいんだと思います。イカはその場でさばいてみんなで山分けしました。偶然起きたことに対して島民も釣り客も一緒になって盛り上がって楽しんで、最後にそれぞれイカを持って帰るって改めて思うとすごいことですよね。」
「方言もおもしろいと思うんですよね。島でしか聞かない生き物の呼び方があるんです。アメフラシをオベンジョサン、カワハギをこーもっきりと呼ぶとか。
『◯◯釣るならあっちがいい』『明日にした方がいい』と釣りのアドバイスもしてくれるけど、何を言っているのかわからないときもある。そういう自然な姿を撮りたい。島民は島でしか生活したことがない人も多くて、彼らにとって当たり前なことが僕にとっては新鮮でおもしろいんです。島はシャイな人が多いから狙って撮ってもなかなか良さが出てこないんですけど、僕はGo Proで動画を撮影しているからカメラを回していると気付かれないこともある。良い動画が撮れたら後から『これ載せていい?』と聞きます。普段から島で暮らしていて人となりを知ってもらっているからこそできることだと思います。」
神集島に移住してから、かつて島で暮らし今は大阪や東京など都会に住んでいる人たちにも動画が見られていることを知りました。
「島の風景や島民たちとの会話が映っているから、住んでいた人たちにとっては懐かしいんだと思います。『北海道に住んでいる孫が、じいちゃんが映っていると連絡して来た』と言われたこともありますよ。そういうのを狙っていたわけではないけど、移住してから島の人と打ち解けられた理由の一つでもあるし、嬉しいですね。」
観光事業が育っていく過程もコンテンツになる
近頃では奥さんも釣りYouTuberとしてデビュー。ヒラメを釣ってネットニュースにもなった。子どもたちももう少ししたら釣りデビューの予定。「チャンネルの目指すところはサザエさん」と語るスンさんがこれからやりたいことは。
「観光です。たとえば、僕はカヤックで釣りをするのが大好きなのですが、カヤック釣りを楽しめる場所ってなかなかないんですね。だから、釣りができるカヤック場を作りたい。
それから今は使われていない唐津焼の窯を復活させて陶芸体験も企画する、など昔あったものを復活させて観光として成り立っていけばいいなと思っています。」
「島の人にもスタッフとして入ってもらって、みんなが少しでもお金を稼ぐことができるのが理想。最初はいろいろ下手くそだと思うんです。でも、自分のYouTubeチャンネルもそうだったんですけど、下手くそがだんだん上手になっていく過程に共感が集まります。まずは個人レベルで企画を立ててみて、だんだんと大きくしていきたいです。」