▼この記事でわかること
・佐賀の離島・加唐島でカフェ「Selfish」を経営する井川えりなさんのインタビュー
・離島にカフェをつくった理由
・古民家リノベーション奮闘記with家族&島民
・島にゆかりのある人が集まる場所になっている
・カフェ以外にやりたいこと
井川えりなさん
Selfish加唐島Café・オーナー
2022年9月にカフェをオープン。母方の実家が加唐島にあるため、島には子供のころから遊びに来ていた。家族や島民と力を合わせて古民家を一からリノベーションしたカフェづくりは、佐賀県内外から注目を集めている。本業は、アクセサリーや家具のデザイン、製作。
Instagram: https://www.instagram.com/taishinmaru3033/
島民たちの自給自足マインドに助けられた古民家リノベーション
えりなさんと弟の真太郎さんがSelfish加唐島Caféをオープンしたのは、2022年9月。飲食店が一つもない島で、島の魚や野菜の美味しさを伝える場所として、また、食を中心に人が集まる場所を目指してのオープンでした。
古民家をリノベーションしたお店づくりでは、さまざまなハプニングが続出。島の人々がたくさんサポートしてくれたそうです。
「全部自分たちでやったんですよ。元々DIYはやっていましたが、家の改装は初めてでした。しかも、離島だし、港からカフェまでの道は途中から車が通らないから資材を運ぶのも大変。厨房にある冷蔵庫は重さが100kg以上あるんです。どうやって運んだと思います?人の手で運んだんです、男性6人がかりでしたね」
畳をフローリングにするときも、島のおじいちゃんたちに床の張り方を教えてもらい、厨房のシンクも島の人たちに教えてもらいながら作りました。島って何かあってもすぐに業者を呼べるわけじゃないから、普段からある程度のことは島の人たち自身でやっているんですよね。カフェのことも応援してくれて、本当にいろんなことを手伝ってくれました。私たち家族だけでやっていたらまだ完成していないと思います。島の人たちの温かさ、優しさはこの島の宝物です」
島の人の多くは漁業者。また、どの家も畑を持っており自分たちが食べる分の野菜を育てています。井川さんもカフェの準備期間中に新型コロナウイルスの流行に伴う移動制限により、3ヶ月島から出られなくなったものの、魚と自家栽培の野菜でなんとかやっていけたそうです。自給自足精神が強い島の人たちの「ないものはつくる」という気持ちがカフェづくりの大きな力になりました。
島と縁ある人たちの居場所、島に遊びに来る理由を目指して
オープンから一年半経った現在、当初の「食を中心に人が集まる場所にする」ビジョンはどれほど実現できたのでしょうか。
「けっこうできたと感じています。島には高校がないから、子どもが高校生になったら家族ごと本土に引っ越してしまう方が多いんですね。そうすると、島に来ても居場所がない方がたくさんいらっしゃる。そういう方が、島に帰ってきた時にちょっと座ってお茶を飲んだり、船が出るまでの間にご飯を食べたり。それから、福岡の大学に地域おこしのゼミがあって、コロナ前は毎年、学生さんが島に来て取り組みをされていたんですね。学生さんたちが社会人になった後に来てくれた時の居場所にもなっています。意外にもそういうコミュニティができつつありますね」
島の人が子どもや孫が帰省した際にファミリーでカフェを訪れたり、自分へのごほうびとして食べに来たりすることも。
加唐島で採れた食材を使っているから、魚も野菜もそのときどきで異なるのがSelfishの魅力。一度の来店をきっかけに、月1やシーズンごとに訪れる方もいるといいます。
「私の一番強い思いは『島おこしをしたい!』だったんですよ。島民や釣り客さんと話していると、島に来るきっかけがないんだなと。遊びに来た友人も『えりながおるけん来るけどさ』と。私が島のことを知らない人間だったら同じように思う。でもこの島には来た方がいいよね、と思ったんです。
きっかけを考えていくとやはり「食」。そして、その魅力を伝えるのには、ここで食べてもらうのが一番、とカフェになったわけです」
尽きないアイデアで生み出す、島に3時間滞在したくなる「きっかけ」
加唐島にはまだまだ「きっかけ」が必要と語る井川さん。すでに次のアイデアの実現に動いています。
「島にラベンダー畑とフルーツ園を作っているんですよ。今は、もともと生えていた木を切り倒して、草と根っこと戦っています。それと、島一周クルージングも計画中です。
いま、カフェをやっていく上で一番大変なのが『お客さんを船の時間に間に合わせること』。11時着の便でご来店いただいて、13時発の便で帰りたい方がほとんど。その時間帯はとんでもなく忙しいです。乗り遅れたら次は16時30分発だからなんとしても乗せないと!って。でも他に目的地があればその時間まで島にいてくれると思うんです」
「最近は島外の方とコラボするイベントをしています。島にいる時間が長いと、どうしても島民目線になってしまう。コラボすると、外から見た時の魅力を知ることができるから勉強になるし、人が島を訪れるきっかけづくりにもなります」
精力的に活動する井川さんに今後の目標を伺いました。
「子どもも大人も行きたいと思う島。行った人は、また行きたいと思う島になっていったらいいなと思います。
島の野菜や魚を食べておいしいと思ったり、景色に癒されたり、自分を見つめ直したり。私自身、ちょっと疲れてしまった時に島に来て元気になったから、そういうパワーを与えられる場所でありたいなと。こんな良い島があるよ、と島外の人に言っていただけたら島民にとっても加唐島が誇りになります」
「それから、いろんな地域で過疎化が問題になっているので、私たちがなんとか成功事例になって、参考になれたらなと。
今も、やりたいことを相談されたら、自分たちが経験したメリットやデメリットをしっかりお伝えしています。 自分たちだけ楽しんでも意味がないから、いろんな人たちと楽しんでいきたい。そして、次の挑戦者を全力でサポートできる立場になれるようにがんばります」