地域に根付いて活動する人が、自身の言葉で活動や想いをつづる「わたしがつくる、さが」。第三回は、嬉野温泉の旅館大村屋の15代目・北川健太さん。
町と人をつなぐユニークな企画を次々打ち立てる北川さんの活動や、嬉野ならではの地域と人の強さ、魅力について語っていただきました。
後半は、北川さんおすすめの嬉野温泉街のグルメ・スポットを紹介!
北川 健太(きたがわ けんた)
旅館大村屋 15代目
嬉野温泉で一番古い旅館「大村屋」に生まれる。東京の大学を卒業後、旅館やホテルを運営する会社に就職。25歳でUターンし、大村屋の15代目に就任。旅館経営の傍ら、まち歩きやスリッパ卓球、嬉野茶時などユニークなイベントを次々と企画、実施している。
HP: http://www.oomuraya.co.jp/
まちづくりは自分のやりたいことをやればいい
私は嬉野で生まれ育ちました。幼少期は嬉野温泉もバブル景気に沸いていて、温泉街は毎晩大にぎわい。しかし、その華やかな時代は長くは続きませんでした。キラキラと輝いていた自分の町が日に日に寂しくなる姿を見ながら思春期を過ごし、大学進学をきっかけに故郷を離れ、東京で暮らし始めました。
16年前に事業承継するため帰郷し、旅館大村屋の15代目の代表として、宿の経営はもちろん、この町の魅力を再発見し、発信することに力を入れています。
これまで、暮らし観光まち歩きやスリッパ卓球、嬉野茶時、エンタメイベントとさまざまな企画を立ち上げ、実現してきました。企画するときは、必ず自分が本当にやりたいこと、好きなこと、「僕がやりたい」という気持ちの延長線上でできることをやるようにしています。
嬉野は小さなコミュニティが多く存在している町。3人いればロックバンドができるように、小さなグループが、様々な分野でそれぞれのペースで活動しているのが、嬉野の魅力です。
Uターンしてきた当初は、多くの人と協力して大きなプロジェクトを進めたいと考えていました
が、今では、それぞれにムーブメントを起こしていく良さ、強さを感じます。
こうした小さな熱量の積み重ねが、持続可能なまちづくりにつながると信じています。
大切なのは、観光と暮らしの共存です。温泉という観光資源に依存せず、町全体が魅力的で、住んでいる人たちにとっても良い町でないと働く人も定住者も集まりません。
そんな思いから、近年取り組んでいるのがまち歩きを通して個人商店や住民とコミュニケーションをする「暮らし観光」です。
暮らし観光がつくる小さな町の新しい可能性
暮らし観光は、対話を伴うまち歩き。案内人が住民や観光客にエリアや個人商店を紹介しながら地場の人々と対話してもらうきっかけを作ります。
案内人がいることで、入ったことのないお店に入るハードルの高さを少しでも低くできたらと思っています。
車中心の生活になったために意外と町のことを知らない地元の人のためのイベントでもあります。
嬉野の魅力は温泉だけではありません。せっかく遊びに来たのなら街中に繰り出してほしいと思っています。地元の人と会話をしてお店に行く、地元の人が行く店に行くといった行動が生まれないと、結局は温泉旅館同士のスペック合戦になってしまい、町のみんなで生き残っていくことはできません。
なにより、僕が町の人と知り合ってから生活がずっと楽しくなったから、それを共有したいんです。
暮らし観光まち歩きを続けるうちに、商店街の人たちは自分たちが外の人たちからどう思われているのかを知り、自分たちの価値に気づきつつあります。
人の心を動かすにはシステムだけでなく、人やその場から生まれる魅力—属人的な要素—も必要。「話す」ことをプログラムに組み込むことで、「また来たい」「この町が好き」という愛着が生まれ、観光客とまちが本質的につながると私は信じています。
嬉野で働く若者が増えていく
実はここ数年、嬉野で暮らす若者が増えています。
大村屋では、3年間で20〜30代のスタッフを20人近く採用しました。なかには、まち歩きへの参加がきっかけだった人も。
東京で生活していた頃は、嬉野の温泉街に若者の希望にこたえる場所がないと感じていましたが、Uターンしてからは「若者が(経済的に)大きなリスクを負わずに挑戦できる余白がある」と気づいたのです。
嬉野は小さな町です。京都のまねをしても同じようになれるわけではない。だからこそ、前例や失敗を気にすることなくみんながそれぞれに楽しいことをやればいいんです。
大村屋では、バーテンダー経験者がバーを立ち上げたり、舞台美術を経験した人がイベントの小道具を作ったり、それぞれの特技を活かして働ける場所を提供しています。
私がやりたいことを続けることで、町がにぎわい、働く若者が増えていく。そうして、嬉野の発展につながれば、これほど嬉しいことはありません。
大村屋の15代目が愛する嬉野温泉街のお店と人
Music Bar OOMURAYA
旅館大村屋の湯けむりラウンジ内にあるミュージックバー。バーテンダーを務めるのは、内村多恵さん。音楽学校を卒業したのち、福岡のオーセンティックバーでバーテンダーとして修行を積み、家族で宿泊したことをきっかけに大村屋へ入社してくれました。店内に足を踏み入れると、ハイエンドオーディオが流れる心地よい音楽とともにリラックスした雰囲気が広がります。宿泊者だけでなく、観光中の立ち寄りや地元の方の利用も多くあります。旅行先で地元の人たちと語らいながら、ほろ酔い気分で音楽に浸る。そんな贅沢なひとときがここにはあります。
Chaya Jiro the BAR
茶農家である松田二郎さんが自ら育てた茶葉を使用したドリンクやフードが楽しめるバー。二郎さんは長崎県出身。いつかカフェを開業したいという思いがあり海外留学。帰国後、通訳の仕事で嬉野の茶農家の素晴らしさと出会い、移住されました。茶農家である副島園で修行し、現在では自分の茶畑を持ち「茶屋二郎」という屋号で独立。日本茶の可能性や価値を磨きながら、多くの方にお茶の素晴らしさ奥深さを伝えています。
select fashion Asahiya
嬉野の温泉街の中心にある創業80年を超える超老舗の洋服店。通称・アサヒヤ。もともとは呉服店「旭屋」だったのですが、時代を経て、現在のような婦人服店の形態となりました。
入店してすぐ右手には「お茶っティー」の特設コーナーがあります。そもそも「お茶っティー」とは、何なのか。実はこれ、アサヒヤの娘さんのお絵描きから生まれたキャラクターなんです。じわじわと人気に火が付き、今では様々なグッズになり地元の方だけでなく観光客にも愛されています。お茶っティーになれる手持ちの顔はめパネルも、撮影スポットとしておすすめです。
橋爪菓子舗
歴史は古く、創業100年以上を誇る老舗です。丸ぼうろ、塩味饅頭、糸切り羊羹など、地元の人に愛されている定番の商品が揃っています。その中でも「佐賀まんまるカステラ」を絶対食べてほしい。橋爪菓子舗の創業100周年と、西九州新幹線の開業を記念して制作した新たな看板商品で、カステラと丸ぼうろを掛け合わせた、新感覚スイーツです。日常だけではなくビジネスの場など、幅広いシーンで手土産として活用しています。
温泉食堂
嬉野の地元住民から長年愛されている食事処です。何を頼んでも絶品で、全種類制覇すべき名店。定食のメインは単品でも頼めるので、気になるのがあれば、シェアして食べてほしいです!私は1週間連続で通っても大丈夫な自信があります。
おすすめは、嬉野産の豆腐を使った「湯豆腐定食」。濃厚な豆腐とだしの旨味が絶妙にマッチし、体の芯から温まります。のんびりと食事を楽しむのは、嬉野を訪れる醍醐味のひとつです。