佐賀県最北端の島・加唐島。もともと飲食店が一つもなかったこの島に一年半前にオープンしたのが「Selfish加唐島Café」。オーナーの井川えりなさんに加唐島の楽しみ方を教えてもらいました。
井川えりなさん
Selfish加唐島Café・オーナー
2022年9月にカフェをオープン。母方の実家が加唐島にあるため、島には子供のころから遊びに来ていた。家族や島民と力を合わせて古民家を一からリノベーションしたカフェづくりは、佐賀県内外から注目を集めている。本業は、アクセサリーや家具のデザイン、製作。
Instagram: https://www.instagram.com/taishinmaru3033/
港から往復30分で楽しむ島さんぽの魅力
定期船「かから丸」
加唐島と本土をつなぐ定期船「かから丸」。2階のデッキからは、きらきらと輝く青い海や玄界灘に浮かぶ島々、海に沈んでいく夕日などワクワクする光景が見られますよ。片道わずか17分の船旅ですが、ふだん乗らない方にとってはちょっとした非日常。旅の気分を盛り上げてくれます。
▼かから丸の運行情報はこちら
https://www.city.karatsu.lg.jp/koutsuu/machi/kotsu/koro/jikokuhyou-kakarashima.html
※往路、復路それぞれ1日4便ずつの運行です。(2023年時点)必ず事前に時間を確認して渡島してください。
※本土側の乗船場は、地図アプリで「かから丸のりば」と検索すると出てきます。
人なつっこい猫たち
島に到着するとたくさんの猫がお出迎えしてくれます。人の足元に擦り寄って、とことことついてくることも。加唐島は「猫の島」としても知られていて、猫好きの方も多く島を訪れます。Selfishのテラスにも常連猫がいますよ。
オビヤ浦
加唐島は韓国とゆかりの深い島。オビヤ浦は百済の第25代国王「武寧王」が誕生したとされる場所です。玉砂利の海岸で波が当たるたびにコポコポと響き渡る波の音に心から癒されます。きれいな球体のシーグラスや貝殻を拾って加唐島の思い出にするのも良いですね。
椿の花&椿オイル
4万5千本もの椿の木が自生し、島の北側には広大な椿園があります。島の人たちで椿の実を収穫し、手間ひまかけて島の作業小屋で搾油したコールドプレス製法のオイルは、採れる量は少ないですが成分が壊れず、栄養たっぷり。Selfishのピザも椿油をたっぷりかけて焼いています。Selfishでは、椿油に香りをつけた髪や手に使えるオイルも販売しています。
Selfish加唐島Caféのこだわりメニュー
島椿ピザ
島の野菜は、スーパーで売られている野菜よりずっと甘くて美味しいんです。野菜が苦手だった人も島野菜なら食べられる、と言うぐらい。ピザにはその時々の旬のものを使っています。この日はパプリカとブロッコリー。トマトソース、バジルと椿オイルで作るソースも島の野菜で作っています。ピザ窯で焼いたものをアツアツのうちにどうぞ!
フィッシュアンドチップス
釣りスポットとして人気の加唐島。理由は「高級魚しか釣れない」からです!そんな島の魚をぜいたくに揚げたフィッシュアンドチップス。サクサクの衣とほろほろっと柔らかく旨味の詰まった魚はほっぺたが落ちるぐらい美味しい!魚はその日獲れたものだけを使っています。じゃがいもは目の前の畑で獲れたもの、タルタルソースも島野菜を使っていて、まさに100%加唐島産です。
お芋のバスクチーズケーキ
島で採れた芋と安納芋を使ったバスチー。芋はお店の薪ストーブで焼き芋にしてから潰しているのでとっても甘いんです。グルテンフリーなので小麦アレルギーの方でも食べられますよ。ゆくゆくは、アレルギー対応のメニューも増やしたいなと思っています。
加唐島Blend Coffee &映えソーダ(グァバしゅわわ)
プロのブレンダーの方が加唐島に来て、島をイメージしながらブレンドしたオリジナルブレンドのコーヒー。豆を石臼で挽いて飲む体験もできますよ。映えソーダは、海を背景に撮るとトロピカルな写真になります。ライチやフルーツなどもあるので、好きな味とカラーで楽しんでください。
「やりたいことは、島に行きたくなるきっかけづくり。カフェはその第一歩です」井川えりなさんインタビュー
えりなさんと弟の真太郎さんがSelfish加唐島Caféをオープンしたのは、2022年9月。飲食店が一つもない島で、島の魚や野菜の美味しさを伝える場所として、また、食を中心に人が集まる場所を目指してのオープンでした。
古民家をリノベーションしたお店づくりでは、さまざまなハプニングが続出。島の人々がたくさんサポートしてくれたそうです。
「全部自分たちでやったんですよ。元々DIYはやっていましたが、家の改装は初めてでした。しかも、離島だし、港からカフェまでの道は途中から車が通らないから資材を運ぶのも大変。厨房にある冷蔵庫は重さが100kg以上あるんです。どうやって運んだと思います?人の手で運んだんです、男性6人がかりでしたね」
畳をフローリングにするときも、島のおじいちゃんたちに床の張り方を教えてもらい、厨房のシンクも島の人たちに教えてもらいながら作りました。島って何かあってもすぐに業者を呼べるわけじゃないから、普段からある程度のことは島の人たち自身でやっているんですよね。カフェのことも応援してくれて、本当にいろんなことを手伝ってくれました。私たち家族だけでやっていたらまだ完成していないと思います。島の人たちの温かさ、優しさはこの島の宝物です」
島の人の多くは漁業者。また、どの家も畑を持っており自分たちが食べる分の野菜を育てています。井川さんもカフェの準備期間中に新型コロナウイルスの流行に伴う移動制限により、3ヶ月島から出られなくなったものの、魚と自家栽培の野菜でなんとかやっていけたそうです。自給自足精神が強い島の人たちの「ないものはつくる」という気持ちがカフェづくりの大きな力になりました。
オープンから一年半経った現在、当初の「食を中心に人が集まる場所にする」ビジョンはどれほど実現できたのでしょうか。
「けっこうできたと感じています。島には高校がないから、子どもが高校生になったら家族ごと本土に引っ越してしまう方が多いんですね。そうすると、島に来ても居場所がない方がたくさんいらっしゃる。そういう方が、島に帰ってきた時にちょっと座ってお茶を飲んだり、船が出るまでの間にご飯を食べたり。それから、福岡の大学に地域おこしのゼミがあって、コロナ前は毎年、学生さんが島に来て取り組みをされていたんですね。学生さんたちが社会人になった後に来てくれた時の居場所にもなっています。意外にもそういうコミュニティができつつありますね」
の。曰く「(えりなさんは)マンガみたいな姉ちゃん」(左)
えりなさん、真太郎さんのお母さん。えりなさんとともにカフェの料理を担当している。(二枚目)
島の人が子どもや孫が帰省した際にファミリーでカフェを訪れたり、自分へのごほうびとして食べに来たりすることも。
加唐島で採れた食材を使っているから、魚も野菜もそのときどきで異なるのがSelfishの魅力。一度の来店をきっかけに、月1やシーズンごとに訪れる方もいるといいます。
「私の一番強い思いは『島おこしをしたい!』だったんですよ。島民や釣り客さんと話していると、島に来るきっかけがないんだなと。遊びに来た友人も『えりながおるけん来るけどさ』と。私が島のことを知らない人間だったら同じように思う。でもこの島には来た方がいいよね、と思ったんです。
きっかけを考えていくとやはり「食」。そして、その魅力を伝えるのには、ここで食べてもらうのが一番、とカフェになったわけです」
加唐島にはまだまだ「きっかけ」が必要と語る井川さん。すでに次のアイデアの実現に動いています。
「島にラベンダー畑とフルーツ園を作っているんですよ。今は、もともと生えていた木を切り倒して、草と根っこと戦っています。それと、島一周クルージングも計画中です。
いま、カフェをやっていく上で一番大変なのが『お客さんを船の時間に間に合わせること』。11時着の便でご来店いただいて、13時発の便で帰りたい方がほとんど。その時間帯はとんでもなく忙しいです。乗り遅れたら次は16時30分発だからなんとしても乗せないと!って。でも他に目的地があればその時間まで島にいてくれると思うんです」
「最近は島外の方とコラボするイベントをしています。島にいる時間が長いと、どうしても島民目線になってしまう。コラボすると、外から見た時の魅力を知ることができるから勉強になるし、人が島を訪れるきっかけづくりにもなります」
精力的に活動する井川さんに今後の目標を伺いました。
「子どもも大人も行きたいと思う島。行った人は、また行きたいと思う島になっていったらいいなと思います。
島の野菜や魚を食べておいしいと思ったり、景色に癒されたり、自分を見つめ直したり。私自身、ちょっと疲れてしまった時に島に来て元気になったから、そういうパワーを与えられる場所でありたいなと。こんな良い島があるよ、と島外の人に言っていただけたら島民にとっても加唐島が誇りになります」
「それから、いろんな地域で過疎化が問題になっているので、私たちがなんとか成功事例になって、参考になれたらなと。
今も、やりたいことを相談されたら、自分たちが経験したメリットやデメリットをしっかりお伝えしています。 自分たちだけ楽しんでも意味がないから、いろんな人たちと楽しんでいきたい。そして、次の挑戦者を全力でサポートできる立場になれるようにがんばります」
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